S2000乗りの諸君、今日も元気にVTECを炸裂させているか? それとも、俺のように「令和3年からの亡霊」に怯え、ガレージで虚しくカチカチ音を奏でているか? なのだ。
前回の記事で、俺の愛車(AP1)が巨大な文鎮と化している現状はお伝えした通りだ。 原因は明白。4年間使い倒したバッテリーの完全死亡。 これを放置することは、VTEC乗りとしての死を意味する。
だが、俺には強力な味方がいる。 迷える俺に福音を授けてくれた、「現役スーパーGTメカニック」だ。 彼が放った一言、「とりあえずACデルコ(ACDelco)にしとけ」。 この一言に込められた圧倒的な現場のロジックと、俺が下した「容量アップ(AMS60B24L)」という結論。まぁ買ったのはAmazonだがな。
今回は、その交換作業の全記録……いや、「マンションという巨大なシステムの隙間で動めいた、あるサラリーマンパパの孤独な戦い」の記録である。なのだ。

■ 決戦は、金曜の深夜(正確には土曜の早朝)
なぜ、バッテリー交換ごときで「戦い」なのか? それは、俺が住むマンションの住環境に起因する。
俺のS2000の定位置は、マンション内の「機械式立体駐車場」だ。 日中は住人の出入りが激しく、パレットが上下左右に動き回る。 そんな場所で、工具を広げてバッテリーをガチャガチャやるなど、正気の沙汰ではない。 「あら、ブリしゃぶさん、何してはるの?」という奥様方の冷ややかな視線に、俺の繊細なハートは耐えられない。
さらに、車のECUは、バッテリー断電後に「10分間ほどのアイドリング」による学習が必要不可欠だ。 日中の住宅街で、排気音を響かせながら10分間放置……。これはもはや、近所迷惑という名のテロ行為である。
つまり、俺に残された選択肢はただ一つ。
「誰もいない、静まり返った深夜に、音を立てずに遂行する」
これだ。ロジカルに行き着いた結論が、これなのだ。
■ 前夜祭:一人寂しい晩飯と、ガハハの計
決戦前夜。 俺は嫁と子供を実家に帰し(この日のために画策したのだ)、完全なる自由を手に入れた。 コンビニで買った少し高めのビールと、一人寂しい晩飯。 テレビを点ければ、バラエティ番組が流れている。
「ガハハ! この芸人、おもしろいな!」
一人寂しく爆笑しながら、俺はさっさと寝た。 なぜなら、午前3時には起床しなくてはならないからだ。 これから始まる死闘を前に、英気を養う。これもまた、プロの戦い方なのだ。
■ 午前3時:機械式駐車場のゴースト
ピピピピ、ピピピピ……。
午前3時。アラームが鳴る。 世界がまだ眠りについている時間だ。 俺は静かに起き上がり、作業着に着替える。 工具箱を持ち、足音を立てずに駐車場へと向かう。
マンション全体が静寂に包まれている。 聞こえるのは、遠くで走るトラックの音と、俺の足音だけ。 この状況、まるでスパイ映画のワンシーンのようだ。 だが、現実は「深夜にバッテリー交換をする変態」である。
機械式駐車場のパレットを呼び出す。 「ゴゴゴゴゴ……」 深夜のガレージに、機械音が不気味に響く。 心拍数が上がる。「誰かに見られたら、不審者として通報されるのではないか?」 その恐怖と戦いながら、俺はS2000の前へと立った。

■ 作業開始:ライトが照らす、黄色い聖域
作業灯を点ける。 暗闇の中に、俺の黄色い聖域が浮かび上がる。 F20Cエンジン。その横に鎮座する、令和3年の亡霊(旧バッテリー)だ。
まずは、旧バッテリーの撤去。 マイナス端子を外し、プラス端子を外す。 久しぶりのDIY。重いバッテリーを持ち上げる。 「うおぉ……重い。」 腰をいわさないように慎重に。 撤去完了。エンジンルームにぽっかりと穴が空いた。

そこに、新品のACデルコ AMS60B24Lを鎮座させる。 純正のB19サイズからB24サイズへの、禁断の容量アップ。 トレイにギリギリ収まるその姿は、まるで格闘家が減量に成功したかのような、無駄のない筋肉美を感じさせる。

プラス端子を繋ぎ、マイナス端子を繋ぐ。 ステーでしっかり固定。 これで、電気的な「復活」の準備は整った。
■ ECU学習:深夜の咆哮と、俺の祈り
さて、ここからが本番だ。ECUの学習タイム。 キーを回す。 「キュキュキュキュ、バォォォン!!」
一発始動! 令和3年の亡霊が、F20Cの咆哮と共に霧散した瞬間だ。 感動している暇はない。アイドリングの10分間が始まる。 深夜の機械式駐車場に、S2000の排気音が響く。 日中なら何ともない音量だが、午前3時半の静寂の中では、まるでサーキットにいるかのような爆音に感じる。
「お願いだから、誰も起きてこないでくれ……」
俺は心の中で祈り続けた。 もし今、管理人が見回りに来たら……。もし今、早起きのおじいさんが散歩に出かけたら……。 その恐怖と戦いながら、俺は愛車の水温計が上がるのをじっと見つめていた。
10分。 それは、宇宙が誕生するよりも長い時間に感じられた。 水温が安定し、アイドリングが落ち着く。 学習完了。
■ 自由の味
エンジンを切り、工具を片付ける。 撤去した旧バッテリーと、俺の愛車のツーショット。 この古ぼけたACデルコ(プレミアムゴールド)こそが、俺をジャンプスターター生活という呪縛から解き放ってくれた、戦友なのだ。

作業完了。時間は午前4時。 空が少し白み始めている。 誰もいないガレージで、俺は一人、静かにガッツポーズを決めた。
独身時代とは違う。僕たちには、バッテリー上がりで無駄にできる時間なんて1秒もない。
家族が寝静まった早朝、あるいは奇跡的に手に入れた自由な数時間。キーを回して「カチッ……」と絶望の音が響いた瞬間、僕たちの週末は終了する。そんな悲劇を、僕はもう二度と繰り返したくない。
さて、目覚めた愛車で俺が向かった先は……。その記録は、また次回の記事で。





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