あの瞬間、俺は「釈放」を言い渡された囚人のような心境だった。
当初の予定では、俺は埃っぽい小学校の体育館で、逃げ惑うガキ共……失礼、元気いっぱいの子供たちを相手に、腰をパキパキいわせながらパイプ椅子を並べるはずだったのだ。それが、我が家の絶対権力者(妻)から朝食の目玉焼きを食べながら放たれた、たった一言で世界が変わった。
「あ、今日の手伝い、私一人で大丈夫そうだから。パパは行かなくていいよ」
……耳を疑った。
あまりの衝撃に、俺は手に持っていた箸を落としそうになった。おいおい、マジかよ。これは神の啓示か? それとも、後でとんでもない高額なバックでも買わされる前振りのトラップか?
だが、彼女の目は本気(マジ)だった。この「絶対権力者からの特赦」を逃す手はない。
俺の脳内コンピューターは、光速で本日の「自由行動シミュレーション」を開始。コンマ2秒後には、体育館で子供会の資料を配る自分の姿をデリートし、矢作ダムのワインディングを駆け抜けるS2000の残像を網膜に焼き付けていた。
「え、あ、そう? 悪いね、じゃあ……ちょっと様子見てくるわ(何のを?)」
そう口にする俺の足は、すでに玄関の靴を捉えていた。背後で「あ、帰りに納豆買ってきてね」という追撃が聞こえたような気もしたが、今の俺にはVTECの咆哮以外はノイズに過ぎない。

見てくれ、このどこまでも突き抜けるような「自由のブルー」を。
もはや一刻の猶予もない。俺の魂は、すでに立体駐車場の地下深くで眠る「黄色い相棒」へと飛んでいた。
■ 眠れる獅子(S2000)、地上に降臨

わずか一週間ぶりの再会。だが、この狭いパレットの上で出庫を待つ時間は、まるで永遠のようにも感じられる。
重厚な機械音とともに地上に姿を現したS2000。その鮮やかなイエローが目に飛び込んできた瞬間、俺の脳内麻薬はドバドバだ。VTECの咆哮を聞く前から、俺のテンションはすでにレッドゾーンへと突入していた。
目的地はいつもの「矢作ダム」周辺。
時間は限られている。本当なら遠出した先でコーヒーを優雅にすすりたい。だが、そんな時間はもはやない。「俺が、俺の意志で、S2000を走らせている」。その事実だけで、俺のQOLは爆上がりなのだ。
■ 押川大滝で直面した「絶望的なセンス」
道中、トイレ休憩を兼ねて「押川大滝」なるスポットへ立ち寄った。
結論から言おう。滝は最高だった。だが、俺の写真センスは最低だった。

見てくれ、この絶妙に「主役がどれかわからない」構図を。
本当は、そこにはマイナスイオン溢れる見事な滝が広がっている。だが、俺のカメラロールに残っているのは、なぜか滝の上あたりで佇む黄色い鉄の塊と、微妙な距離感の風景だけだ。



「本当はもっと綺麗なんだ……!」と大声で叫びたい。だが、現実は残酷だ。俺の撮影スキルは、S2000のハンドリングとは対極にある「もっさり」としたものだったのである。
これを見ている人はどうか脳内でこの写真に100倍の補正をかけて見てくれ。頼む。
■ それでも、この「突発的自由」が明日への糧
結局、いつものコースをなぞっただけの、なんてことないドライブ。
だが、予定調和のボランティアから一転、突如として舞い降りたこの数時間は、俺にとってどんな高級レストランのディナーよりも贅沢なものだった。
計画なんてなくていい。目的地がいつもの場所でも構わない。
大切なのは、絶対権力者の機嫌を損ねることなく、この「奇跡の空白地帯」を全力で駆け抜けることなのだ。
さあ、現実に戻ろう。
帰宅して俺を待っているのは、きっと「パパだけ楽しんできたの?」という無言のプレッシャーと、夕飯の支度だ。
だが、俺の心にはまだF20Cの咆哮が響いている。これでまた一週間、戦える。
一応、動画も撮った。
相変わらず盛り上がるポイントは皆無だが、「おっさんの横顔が映るリスク」を背負いながらもVTECサウンド(VTECには入っていない)だけはしっかり収めておいた。正直あまり面白いものではない。動画は上記のマップの地点で長尺だ。





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