【原点】妻より長い付き合い。俺がS2000という「毒」を喰らい、心中を決意したまさかの理由。

暗い部屋のデスクで、グランツーリスモ4のリファレンスガイド(教本)と、その上に置かれたホンダS2000の実車の鍵、奥のモニターにはGT4の画面。

ぶっちゃけ、自分でもどうかしていると思う。

今の世の中、ミニバンやSUVがもてはやされ、自動ブレーキだの燃費だのが絶対的な正義とされる時代だ。そんな中で、実用性ゼロ、部品供給は絶望的、おまけに2人しか乗れない黄色い鉄の塊を、後生大事に持ち続けている男がいる。俺だ。

今の妻よりも付き合いが長い。子供が生まれて環境が激変しても、幾度となく「売却」の二文字が頭をよぎっても、その度に家族と自分に「いや、まだ大丈夫だ」と言い聞かせ、手放さずにここまできた。

なぜ、俺はここまでS2000に執着するのか? 今回は、俺がこの「底なし沼」に頭から突っ込むことになった、すべての始まりについて語ろうと思う。

■ 車愛ゼロの大学生。始まりは「親のセダン」

始まりは、親の「日産のセダン」だった。車名はあえて伏せる。

当時、大学生だった俺は親の車を借りて通学していた。スポーツカーとは無縁の、極めて真っ当なセダンだ。たまに洗車機に入れて洗車をするくらいで、車に対する愛情なんて1ミリもなかった。単なる「移動の道具」という事実。それがすべてだった。

そんな俺の運命を狂わせたのが、まさかの『グランツーリスモ4(GT4)』だ。「は? ゲームかよ」と笑った奴、ちょっと表に出ろ。

■ 運命を狂わせた「デジタル自動車教本(GT4)」

出展:ポリフォニーデジタル

当時の俺は、車になんて興味がなかったくせに「なんとなく」GT4を買った。本当に、ただの気まぐれだ。だが、これがガチの「劇薬」だった。

単に車を走らせるだけじゃない。GT4のヤバさは、その異常なまでの「情報量」にあった。車種ごとのヒストリーが詳細に語られ、さらに同梱されていた『リファレンスガイド』という冊子がトドメを刺した。 LSDとは何か? 車高調のセッティングとは? エンジンの構造とは?

何も知らない素人の脳みそに、車の構造と物理法則を叩き込む「デジタル自動車教本」。俺はプレステ2の電源を入れるたび、ロジカルに車を学んでいったのだ。

気づけば、街を走る実車を見るのが楽しくて仕方なくなっていた。「あ、あれはGT4にいた〇〇だ」と、知識と現実がリンクしていく快感。完全に車オタクの扉を蹴り破っていた。

■ 三つ巴の最終選考。そして「ターボよりNA」という偏愛

そして、就職。卒業と同時に「自分の車を買う」というミッションが発動した。 GT4で無数の名車を乗り回した俺の頭の中には、すでに3台の最終候補が絞り込まれていた。

・日産 フェアレディZ(Z33)

・マツダ RX-8

・ホンダ S2000

GT-Rやスープラ、ランエボ、インプレッサといった「ターボの暴力」も当然好きだった。だが、実車のパワー感など知る由もないくせに、俺は「ターボよりNA(自然吸気)の方がピュアで美しい」という、ゲーム仕込みの偏ったロジックに支配されていたのだ。

中でもS2000のスペックは、俺の心を完全に鷲掴みにした。「2シーター」「オープンカー」「2リッターNAで250馬力」、そして「ホンダ50周年記念車」。 これほど特別感に溢れたパッケージングがあるだろうか? いや、ない。 就職からわずか3ヶ月後、実用性などという単語を脳内から完全にデリートした俺は、S2000のオーナーになった。

納車直後ぐらいの写真

■ 終わらない非日常と、深まる「沼」

納車されてからの毎週末は、ただドライブをするだけで「非日常」だった。GT4のポリゴンではなく、本物の風と、VTECの咆哮。楽しくて、楽しくて、狂ったように走り回った。

釣りにも普通に行っていた

ひょんなことから同い年の車屋と知り合い、車のディープな構造を教わり、気づけばサーキットにまで足を突っ込んでいた。沼の底へ、一直線だ。

初めてのサーキットは広島のタカタサーキットだった
初めての国際サーキットは岡山国際サーキットだった

■ 正解じゃなくてもいい。こいつは俺の「戦友」だ

あれから20年以上。 俺の環境は激変した。妻と出会い、子供が生まれ、親のセダンを転がしていた大学生は、立派な中年のオッサンになった。

若かりし頃の妻と鳥取県の境港へ

「もう2シーターはキツいんじゃないか?」 「部品も出ないし、乗車人数の問題もあるぞ」

正論だ。完全にロジカルな指摘だ。S2000を所持し続けることが「正解」だなんて、口が裂けても言えない。だが、もはやこの車は、ただの「所持品」ではない。俺の青春、結婚、そして親になるまでのすべてを見てきた、かけがえのない『戦友』なのだ。

妻よ、すまない。 君よりも長い付き合いのこの戦友と、俺はもう少しだけ、このバグったロジックの道を走り続けようと思う。

そして、車が好きになるきっかけなんて俺みたいにゲームがあるんだから何でもいいと思う。

若者よ、ぜひ素晴らしき世界へ一歩を踏み出して欲しい。

この記事を書いた人

製薬会社で論理(ロジカル)を武器に生き残る中年サラリーマン。だが、一歩会社を出れば、絶滅危惧種のオープン2シーター「S2000」を愛でるただの変態である。

20年以上の付き合いになる相棒の維持費に悲鳴を上げ、三井ダイレクトには門前払いされ、夏は家族から「走るサウナ」と罵られる日々。それでもVTECが弾ける瞬間、すべての苦労は「至高の悦び」へと昇華するのだ。

このブログでは、そんな「愛」と「工夫」で名車と心中する男のリアルな軌跡を、嘘偽りなく書き綴る。

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