いいか、全国のS2000乗り諸君。我々の愛車は最高だが、唯一避けて通れない宿命がある。それが幌の劣化だ。
私の場合、機能に問題はなかった。だが、下地から接着剤の黒いシミが浮かび上がり、その姿はまるで「手入れを忘れた古民家の屋根」のように汚らしかったのだ。張替えを頼めば30万。ならば自分で塗ればいいじゃないか。おしゃれなブラウンに変身させれば、私のS2000は欧州の風を纏うはずだったんだ……。
■ 準備:私の屍を超えてゆくための「兵器」たち
作業に入る前に、今回の戦いを共にした道具を紹介しよう。断っておくが、道具に罪はない。 悪いのは、これらを使いこなせなかった私の「見通しの甘さ」なのだ。
[染めQ 染めQエアゾール エスプレッソブラウン264mm]
「今回の主役にして、私の心をへし折った元凶。素材への密着性は凄まじいが、色選びだけは慎重にしろ。私のような『泥沼』にハマりたくなければな。」
今回は計5本使した。ちなみにこの染めQという素材で幌塗装をしているツワモノがネットでいた事が今回の作業のきっかけだ。
[アイリスオーヤマ 布テープマスカー M-NTM1800]
「これなしではボディまでブラウンに染まっていた。1800mmという広大な守備範囲こそ、DIYにおける唯一の良心だ。養生こそ全てなのだ。」
養生とテープがセットなので非常に使いやすい。
[303 High Tech Fabric Guard]
「仕上げにこれを使ったおかげで、仕上がりは最悪だが撥水力だけは超一流だ。私の涙さえも、この幌は冷酷に弾き飛ばすことだろう。」
いわゆる幌保護及び撥水材だ。塗装後は幌が固くなるらしいのでこれを使用。本来は幌の撥水剤としての使用だとは思う。撥水効果はしっかりと水玉になり完璧だ。

ただの新聞紙
マスキングの隙間にうめるのに使用した。ほとんど使用しなかったが後の祭りになる前に用意だ。
■ 第一幕:完璧なる養生と「勝利の予感」





見てくれ、この無残な姿を。幌の表面に、まるでどす黒い血管が浮き出たかのように這い回る『接着剤の痕跡』を。
以前の私はこう思っていた。『見た目は少々汚いが、雨漏りしていないんだからいいじゃないか』と。だが、一度気になり始めたら最後、それはもはや車の一部ではなく、私の自尊心を蝕む『黒いシミ』にしか見えなくなったのだ。
『塗装すれば消えるはずだ』。そんな私の浅はかなロジックは、エスプレッソブラウンを吹き付けた瞬間に粉々に打ち砕かれた。隠れるどころか、茶色のベールを纏うことで、その黒いシミはより一層、禍々しい存在感を放ち始めたのだ。
それは、20年という歳月が刻んだ『老い』の象徴。張替え費用30万円という現実から逃げ回った私に、S2000が突きつけた『年貢の納め時』だったのかもしれない。おしゃれな茶色で隠蔽しようとした私の虚栄心を、その黒い糊は今も、幌の奥底からニヤニヤと嘲笑い続けているのだ。」

見てくれ、この完璧な布陣を。アイリスオーヤマのマスカーを惜しみなく使い、ボディを新聞紙で包み込んだその姿は、さながら外科手術を待つ患者のようではないか。「段取りが8割」とはよく言ったものだ。
この時の私は確信していた。これから始まる変貌が、私のカーライフに新たな1ページを刻むことを。だが、この「完璧な準備」こそが、後に引けない地獄への入り口だったのだ。
■ 第二幕:忍び寄る「ムラ」という名の恐怖

染めQを噴射した瞬間、私の脳内にアラートが鳴り響いた。「……あれ? 色が違いすぎないか?」いやいや。きっと一本目だからだよ。もっとやればヨーロッパの風が流れてくるはずだ。
しかし・・・





エスプレッソのような高貴な茶色を想像していた私の目に飛び込んできたのは、なんだかよくわからない「薄汚れた茶色」の斑点だ。しかも、塗れば塗るほどムラが広がる。接着剤の黒いシミを隠そうと厚塗りをすれば、そこだけが異様に浮き上がる。
ブラウンになるんじゃなかったのか・・・これは・・・
4本を使い切る頃、私の指先は恐怖で震えていた。もはや「おしゃれ」なんて言葉はどこかに吹き飛び、ただ「このムラを消してくれ」と神に祈るだけのマシーンと化していたのだ。
■ 第三幕:完成、そして「あとの祭り」

完成した姿を見て、私は膝から崩れ落ちた。 そこにあるのは、欧州の風を感じさせる貴婦人ではない。下地の黒いシミが透けて見え、全体的にドロリと汚れた、「何年も雨ざらしにされた廃車の屋根」のような何かだ。


ブラウンを選んだ過去の自分を殴り倒したい。なぜ、おとなしく「黒」を選ばなかったのか。黒ならこのシミもムラも、ロジカルに解決できていたはずなのに。
ここまで失敗したのも人生で珍しいぐらい。俺がこの世に出てきたぐらいの失敗だ。
■ 編集後記
「結局、2万円の授業料を払って手に入れたのは、理想のブラウンではなく『一生消えない後悔』だった。
遠くから見れば、まあ、見えなくもない。だが一歩近づけば、そこには私の虚栄心が招いた『塗料の死骸』がこびりついている。機能には問題ない。だが、私の心はバキバキに折れている。
良いか、諸君。DIYにおける『冒険』と『無謀』は紙一重だ。おしゃれを気取ってエスプレッソを注文する前に、まずは自分の身の程を知るべきだったのだ。……明日の朝、目が覚めたらこの幌が勝手に黒に変わっていないか、私はまだ淡い期待を抱いている。……もちろん、変わるはずがないのだがな。
さて、次は走行動画を撮りたいからマイクマウントの作成だ。幌の見た目は汚いが、録画する音だけは最高にしてやる。そうでもしないと、やってられないからな!」





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